Field Guide — 現場で開く
外壁劣化の見分け方
壁を見ながら開く図鑑です。これは何か、放っておいてよいか、次に誰を呼ぶか。九つの劣化について、見た目・原因・進み方・緊急度・次の一手を、一つずつ書きました。
一覧
| 見た目 | 緊急度 | 次の一手 | |
|---|---|---|---|
| ヘアクラック | 髪の毛ほどの細いひび | 低 | 経過観察 |
| 構造クラック | 幅 0.3mm 以上・深いひび | 高 | 有資格者(一級建築士・建築物調査員など)に見てもらう |
| タイルの浮き | 下地から離れているが、まだ落ちていない | 高 | 打診調査(有資格者) |
| 剥離・欠落 | タイル・モルタル・塗膜が剥がれ落ちた跡 | 高 | 落下範囲の養生と立入制限 |
| 白華 | エフロレッセンス。白い粉・白い垂れ | 中 | どこから水が入っているかを探す(上のひび・目地・笠木・シーリング) |
| 錆汁 | 茶色い筋・赤茶の垂れ | 中 | 出どころを特定する |
| 爆裂 | コンクリートが内側から割れて、鉄筋が見えている | 高 | 直ちに養生・立入制限 |
| シーリングの劣化 | 目地・サッシ周りのゴム状の部材の傷み | 中 | 打ち替え(古いものを撤去して新しく充填) |
| チョーキング | 触ると白い粉が手につく | 低 | 再塗装の計画に入れる |
| 藻・カビ・雨だれ汚れ | 緑や黒の汚れ、窓の下の黒い筋 | 低 | 洗浄 |
緊急度は目安です。建物の構造・築年・立地で変わります。最終判断は有資格者に。
ヘアクラック
髪の毛ほどの細いひび
- 見た目
- 幅 0.3mm 未満の細い線。塗膜やモルタルの表面に、網目状や不規則に走る。指で触っても段差を感じない。
- 原因
- 塗膜や表層モルタルの乾燥収縮、温度変化による伸び縮み。構造体まで達していないことが多い。
- 放置すると
- それ自体は急がない。ただし雨水の入口になり、数年で幅が広がる・内部の鉄筋を錆びさせることがある。
- 緊急度
- 低
- 次の一手
- 経過観察。半年〜1 年ごとに同じ場所を撮って、幅が広がっていないか比べる。次の塗装で埋める。
- AI で
- 写真に写れば検出できる。ただし幅の実測は写真からはできないので、幅の判定は現地でクラックスケールを当てる。
構造クラック
幅 0.3mm 以上・深いひび
- 見た目
- 幅 0.3mm 以上。まっすぐ、または斜めに長く走る。開口部(窓)の角から斜めに出るもの、階の境で水平に出るものが典型。段差や、ひびの両側で面がずれていることがある。
- 原因
- 建物の不同沈下、地震、構造体の変形、鉄筋の錆による膨張。表層ではなく躯体に及んでいる可能性がある。
- 放置すると
- 放置すると水が躯体に入り、鉄筋が錆びて膨張し、爆裂につながる。幅が広がり続けるなら構造の問題。
- 緊急度
- 高
- 次の一手
- 有資格者(一級建築士・建築物調査員など)に見てもらう。幅の推移を記録する。0.3mm という数字は実務の目安で法令の閾値ではないが、ここを境に扱いが変わる。
- AI で
- 検出できる。幅が広いほど確実に写る。ただし「構造クラックかどうか」の最終判断は写真ではできない。
タイルの浮き
下地から離れているが、まだ落ちていない
- 見た目
- 見た目ではほぼ分からない。よく見ると目地に沿って細いひび、タイルの表面がわずかに膨らんでいる、叩くと乾いた高い音がする(健全なら詰まった低い音)。
- 原因
- 下地モルタルとタイル、または躯体と下地の間の接着が、温度差・水・経年で切れる。
- 放置すると
- 浮いたタイルはいずれ落ちる。高所からの落下は人身事故になる。建築基準法 12 条の定期報告で外壁の全面打診が求められる理由がこれ。
- 緊急度
- 高
- 次の一手
- 打診調査(有資格者)。範囲が広ければ赤外線調査。落下の恐れがある箇所は先に養生する。
- AI で
- 写真では原則として分からない。膨らみや目地のひびが写っていれば「疑い」として拾える程度。打診・赤外線の代わりにはならない。
剥離・欠落
タイル・モルタル・塗膜が剥がれ落ちた跡
- 見た目
- タイルが無くなって下地が見えている。モルタルが板状に剥がれている。塗膜がめくれて下の色が出ている。
- 原因
- 浮きが進んで落ちた結果。塗膜なら下地処理の不良や水の回り込み。
- 放置すると
- 露出した下地から水が入り、周囲の浮きが広がる。落ちた箇所の周りは次に落ちる候補。
- 緊急度
- 高
- 次の一手
- 落下範囲の養生と立入制限。周囲の打診。補修は原因(浮き・水)を止めてから。
- AI で
- 検出できる。最も確実に写る劣化の一つ。
白華
エフロレッセンス。白い粉・白い垂れ
- 見た目
- 壁の表面に白い粉が吹いている、白い筋が垂れている、ひびの縁から白いものが染み出している。触ると粉っぽい。
- 原因
- コンクリートやモルタルの中の成分(水酸化カルシウムなど)が、水に溶けて表面に出て、空気で固まったもの。つまり「水が通った跡」。
- 放置すると
- 白華そのものは構造に害が無い。ただし水の通り道があることの証拠で、その先に錆や剥離がある。
- 緊急度
- 中
- 次の一手
- どこから水が入っているかを探す(上のひび・目地・笠木・シーリング)。入口を止めないと、拭いても再発する。
- AI で
- 検出できる。白い筋は写真で明瞭。
錆汁
茶色い筋・赤茶の垂れ
- 見た目
- 壁面に茶色〜赤茶の筋が垂れている。ひびの縁や、金物(手すり・面格子・配管の支持金物)の根元から出ていることが多い。
- 原因
- 中の鉄筋か、取り付けられた金物が錆びて、錆が水に溶けて流れ出ている。
- 放置すると
- 鉄筋の錆なら、錆は体積が膨らむのでコンクリートを内側から押し割る。次の段階が爆裂。金物の錆なら、金物の固定が弱くなる。
- 緊急度
- 中
- 次の一手
- 出どころを特定する。鉄筋由来ならひびの有無と合わせて有資格者に。金物由来なら金物の固定を確認する。
- AI で
- 検出できる。白華と色で区別できる。
爆裂
コンクリートが内側から割れて、鉄筋が見えている
- 見た目
- コンクリートの表面が塊で欠け、中から錆びた鉄筋が露出している。周囲に錆汁と放射状のひび。
- 原因
- 鉄筋が錆びて膨張し、かぶりのコンクリートを押し出した。かぶりが薄い・水が入りやすい場所(バルコニーの手すり壁、庇の先端、開口部の周り)で起きやすい。
- 放置すると
- 露出した鉄筋はさらに錆び、欠落が広がる。欠けた塊が落ちれば人身事故。構造耐力に関わる段階。
- 緊急度
- 高
- 次の一手
- 直ちに養生・立入制限。有資格者による調査と、鉄筋の防錆処理を含む補修。
- AI で
- 検出できる。露出した鉄筋と欠けは写真で明瞭。
シーリングの劣化
目地・サッシ周りのゴム状の部材の傷み
- 見た目
- 表面に細かいひび、硬くなって弾力が無い、両側の部材から剥がれて隙間がある、痩せて凹んでいる、ちぎれている。
- 原因
- 紫外線と温度変化による経年。一般に 10 年前後で寿命を迎える製品が多い(製品・向き・立地で大きく変わる)。
- 放置すると
- 隙間から水が入り、外壁の内側やサッシ周りから漏水する。外壁の他の劣化(浮き・白華・錆)の入口になる。
- 緊急度
- 中
- 次の一手
- 打ち替え(古いものを撤去して新しく充填)。上から足す「増し打ち」は延命にしかならない。大規模修繕の周期と合わせて計画する。
- AI で
- 写真に写るひび・剥がれ・隙間は検出できる。弾力の有無は現地で触る。
チョーキング
触ると白い粉が手につく
- 見た目
- 壁を手でなでると、塗料の色の粉がつく。艶が無くなり、色が薄く見える。
- 原因
- 塗膜の樹脂が紫外線で分解され、顔料が粉として残った状態。塗膜の寿命の始まり。
- 放置すると
- 塗膜が防水の役割を失い、下地が水を吸い始める。ひび・剥離・藻の前段。
- 緊急度
- 低
- 次の一手
- 再塗装の計画に入れる。今すぐ危険ではないが、放置年数がそのまま次の劣化の早さになる。
- AI で
- 写真ではほぼ分からない。艶の低下は撮影条件で変わる。手で触るのが確実。
藻・カビ・雨だれ汚れ
緑や黒の汚れ、窓の下の黒い筋
- 見た目
- 北面や日陰に緑〜黒の膜。窓の下や庇の端から黒い筋が垂れる。
- 原因
- 湿気と汚れ。雨だれは、雨水が汚れを集めて同じ道を流れた跡。
- 放置すると
- それ自体は美観の問題。ただし藻が生える面は常に湿っており、塗膜の劣化が早い。雨だれの筋は水の通り道を示している。
- 緊急度
- 低
- 次の一手
- 洗浄。再発が早いなら、その面の水はけ(水切り・庇)を見直す。
- AI で
- 検出できる。「汚れ」として拾う。緊急度は低く判定する。
現場での見方
朝か夕方の斜めの光で見ると、膨らみや段差が影になって出ます。正午の順光では平らに見えます。雨の翌日は、水の通り道が乾きの遅い筋として残ります。白華や錆汁の出どころを探すには、雨上がりが向いています。
写真は面ごとに、同じ距離・同じ角度で撮っておくと、半年後に同じ場所を比べられます。 劣化は一枚の写真より、時間をおいた二枚の差で分かります。
よくある質問
ひび割れの幅は、どうやって測りますか?
クラックスケール(幅の目盛が印刷された透明の定規)を壁に当てて読みます。数百円で買えます。写真からは幅を正確に測れないので、幅で判断が分かれる箇所は現地で測ってください。
0.3mm という数字は法律で決まっていますか?
法令の閾値ではありません。外壁調査の実務で「これ以上は構造に及んでいる可能性を疑う」という境として広く使われている目安です。建物の構造・築年・立地で判断は変わります。
タイルの浮きは写真で分かりますか?
原則として分かりません。浮きは下地とタイルの間の見えない隙間なので、打診(叩いて音を聞く)か赤外線(温度差を見る)で調べます。写真に写る目地のひびや膨らみは「疑い」の手がかりにはなります。
緊急度「高」が出たら、何をすればいいですか?
まず、その下を人が通らないようにします(養生・立入制限)。次に有資格者(一級建築士、建築物調査員など)に調査を依頼します。補修の見積もりはその後です。
この図鑑の劣化は、AI でどこまで見つかりますか?
各項目の「AI で」に書いてあります。写真に写る変化(ひび・剥離・白華・錆汁・爆裂・汚れ)は検出できます。写真に写らない変化(浮き・チョーキング・シーリングの弾力)は現地で確かめる必要があります。AI の診断は法定点検の代わりにはなりません。